株式会社クオリティ・アンド・バリュー

今日もココロをストレッチ

2022年8月~から1年間、秋田魁新報等の新聞で連載されていたコラム「今日もココロをストレッチ」を一部加筆修正して掲載します。

第4話

傷つきから飛躍する〜金継ぎのココロ

世界的に「金継ぎ」がブームとなっていることをご存じでしょうか。「金継ぎ」とは室町時代に起源を持つ、日本の伝統的な器の修復技法のことです。割れや欠けのある茶わんを漆で継ぎ、その上から金粉を蒔(ま)く。すると、欠損部分の補強とともに、金粉は美しい装飾となります。壊れ物が唯一無二の器に昇華する、そこが面白いのでしょう。また、物を直して長く使うという考え方もサスティナブル社会にマッチしています。「KINTSUGI」はそのまま海外で通じるくらいにポピュラーになっているのです。

「金継ぎ」の世界をもう少し掘り下げると、壊れた器は人の心の象徴とも言えるでしょう。傷ついた心を癒やすように自分で器を直す、しかも金で美しく飾る行為は自分自身とその人生を礼賛することにもつながります。

人の心は傷つきやすいものです。けれども、傷つく経験によって前よりもさらに大きく飛躍できる可能性も秘めています。心的外傷後成長(PTG)と呼ばれる状態がそれです。
大病を患った経験のある人がそれまでの生き方をガラリと変えて、まったく違う人生を新たに歩き出す、という話は珍しいものではありません。大病だけではなく思いもよらないショッキングな出来事は人生の側面のひとつ。大きく傷つく経験は、人が人生を変えるきっかけやエネルギーとなり得ます。
そうした変容を遂げた人たちには共通する特徴があり、「明るく前向き、周囲への感謝にあふれ、人生の目的を見いだしている」ということです。

人の心は繊細でもろいもの、けれども同時に強く逞(たくま)しく美しいものです。そしてどんな人でも傷ついた経験を持っているものです。傷や欠けも魅力にしてより輝きを増す、人にはそうした力もあるのだと「金継ぎ」は気付かせてくれます。

第3話

人生100年時代のココロの在り方

人生100年時代と言われます。心身ともに健康で充実した人生をなるべく長く送りたい、と誰もが思っています。実際、元気に働き、積極的に社会参加している高齢者は増えているようです。先日、ある会社の相談役として活躍しておられる80代の方とお会いしました。その方とお話をしていた時に印象的な言葉がありました。
それは、「今が一番幸せなんですよ」というひとことでした。

100歳を超えて元気に暮らす長寿者のことを1世紀以上を生き抜いたという意味で「センテナリアン」(Centenarian)と呼びます。その健康長寿の秘訣については各分野で研究が進んでいます。注目すべきはセンテナリアンの血液状態です。私たちの血液は加齢によって少しずつ慢性炎症という症状が進みます。これが老化や病気の原因になるのですが、センテナリアンにはこの症状が極めて少ないのだそうです。そして慢性炎症を抑える要因として考えられるのは、共通した食習慣や運動習慣ではなく、どうやら心の状態にある、ということがわかってきたのです。それが「今が一番幸せ」です。センテナリアンたちはたとえ病気であっても異口同音に、いまが一番幸せだと語ります。

「足るを知る」という言葉があります。本当に幸せな人とはどんな状態の中にあっても幸せを見つけることが出来る人なのでしょう。これだけ医学が進歩しても健康長寿の秘訣は食べ物でも運動習慣でもなく、「心の在り方」なのだということはとても興味深いことです。ということは私たちにも可能性があります。
人生100年時代、元気で幸せなセンテナリアンへの道は誰にでも開かれているのです。

第2話

疲れたら歩こう〜脳の休め方

散歩を日々の日課にしている方は多く、私もその一人です。朝の早い時間に澄んだ空気の中を歩くのは気分が良く、1日のスタートのいいきっかけになります。また、昼間や夜も仕事や会食で外に出ている時、近いところならば歩いて移動します。都市部のターミナル駅は巨大してしまって駅の構内を歩くのもタイヘン、交通機関を使って移動するよりも歩いた方が時間短縮になることもあります。
散歩は手軽な有酸素運動として健康づくりに役立ちますが、疲れた脳をリフレッシュさせる効果もあるようです。

私たち現代人の脳は1日中忙しく活動しています。眠っている時でさえ働いている脳が休まるのは、「ぼ〜っ」と何も考えずに過ごしているときのみ。けれども何も考えないって案外難しいです。特に普段から忙しくしている人ほど、「ぼ〜っ」としようとしても、いつの間にか何かを考えていることが多い。
そんな時、散歩をしたり、仕事の移動を歩きに変えて「ぼ〜っ」のチャンスにしちゃいましょう。
ひたすら歩いていると脳がアイドリング状態に入り、デフォルト・ネットワークが活動し始めます。デフォルト・ネットワークとは脳のメンテナンス活動のこと。この状態になると脳は適度に休むことが出来ます。

デフォルト・ネットワークが活動しやすい歩き方はいくつか条件があるようです。まず、自分がよく知っている場所を歩くこと。知らない場所だと周りに意識がいってしまって歩くことに集中できませんからね。歩く距離や時間は頭がカラッポになりスッキリした気分になるまで。自分の状態に合わせて歩いてみてください。そしてもうひとつ、ひとりで気ままに歩くことを楽しみましょう。頭をカラッポにすることが目的なので誰かと話しながらっていうのはダメなんですね。またヘッドホンで音楽を聞きながら、というのも邪魔になると思った方がいいでしょう。

なんだか頭が疲れたな、と感じたら外に出て歩いてみる。脳に余白をつくる、簡単なリフレッシュ方法です。

第1話

テクノロジーと私たちのつながり

その昔、マンガの神様・手塚治虫さんが描いた近未来の世界には、テレビ電話でおしゃべりとか、空飛ぶクルマでドライブなど、夢のようなまだ見ぬテクノロジーが溢れていました。半世紀以上前に想像した未来はすでに多くが現在の生活の中で実現されています。テレビ電話でおしゃべりはご存知の通り、オンライン会話ツールとして私たちの生活にはなくてはならないまでに普及しています。
また空飛ぶクルマは数年後には実証実験の段階まで開発が進んでいます。10年後の私たちは空もスイスイ、なんてことが可能になっているのかもしれませんね。

オンライン会話ツールは特にこの数年間で多様な使い方ができるようになりました。1対1の会話だけではなく、1対多数の授業や講演、セミナーなど様々な活用方法が広がっています。画期的で便利なオンライン会話ツールですが、もちろんデメリットもあります。研究者からの警鐘として「心のつながりが感じづらい」ということが挙げられています。画面に映った相手の心動きを知るには非言語情報を読み取ることが必要ですがオンラインではそれが難しい。その結果として人はストレスを感じやすいのだそうです。非言語情報とは表情や声音、呼吸のスピードや話のリズムなど、まさに言葉以外の情報です。対面して人と話すときは無意識に感じ取っているもので、この非言語情報のやりとりが「心のつながりが感じられる」という、コミュニケーションでは重要な要因です。

テクノロジーの進化はこれからも私たちにより便利な生活を提供してくれるでしょう。一方で人の心を満たすのは利便性とは別のところにある、ということを私たち自身が知っていることは大切なことでしょう。

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